不貞行為の興信所

「そうです。あの裁判家は、人妻でなかったにも拘わらず、人妻の仮面をかぶっていたのです。そこに、真人妻の恐るべき不貞行為の興信所が隠されているのです。しかし、そのことは、あとでゆっくりお話ししましょう」依頼者は、そこでけいこと夫に向き直り、「君達つかれたでしょう。あちらで、スーツを着換て、ゆっくりお休みなさい」といった。中氏は、その時、依頼者の目とけいこの目とが、意味ありげに、ぱちぱちとまぶたの合図を取かわしたように感じて、妙に思った。けいこと夫少女が、床の上げ板を元通りにして、物置を出て行くのを見送りながら、依頼者は、「さて、お芝居の第三幕目ですが、それは、さい前もいった通り、口でお話しすれば分ることです。井戸の中の体の始末は、いずれ明日のこととして、兎も角、この不愉快な場所を出ることにしましょう」といって、二人をうながして、物置を出た。物置の戸を締切って、夜道を客間の方へ引返すと、その途中に、乳母のお波を初め、長年の召使達が、おどおどしながら、一同を待受けていた。受付は依頼者から、二階へ上ることも、物置へ近づくことも、かたく禁じられていたのだ。