不貞行為の探偵

そして、例の置物」といいかけて、依頼者はなぜか探偵紳士の顔を盗み見た。「例の不貞行為の探偵と一緒に、これを作らせておいたのです。ちゃんと型が残っていましたからね。え、あのお面の最初の依頼者を調べて見たかとおっしゃるのですか。調べて見ました。妙なことには、その依頼者は、上田ではなかったのですよ」「誰でした。名前が分っているんですか」証人は思わず、せき込んだ。「無論変名で注文したのでしょうから、名前が分ったところで、仕方がありません。人相風体は聞き出しておきました。しかし、それもたいへんにあいまいなのです」「で、そのろう面を、あなたの前に、もう一つ注文した奴があるのですか。つまり、同じ唇のないお面が三つ製作されたのですか」中氏は流石に急所を突く。「ところが、僕の注文の外には、たった一つ作ったばかりなのです。僕もその点に気づいたものですから、全部のろう細工人を調べて見ましたが、外に同じようなお面を作った者は一人もありません」「すると、僕が品川湾ではぎ取った、上田のかぶっていた、あの仮面が、即ち人妻の注文したものだということになりますね」証人はふに落ぬ体で、依頼者の顔を見た。